Last Updated on 03/23/2024 by てんしょく飯
鈴木おさむが、地上波連ドラ脚本引退作として不倫ドラマを書いたことは驚いたけれど、さらに度肝を抜かれたのが、その内容が“不倫ドラマ史上最恐”だったこと。
伊藤淳史扮する主人公が、驚異の不倫男に翻弄される『離婚しない男-サレ夫と悪嫁の騙し愛-』(テレビ朝日)の最終話が3月16日に放送された。不倫男役の小池徹平には、ほんとびっくりさせられてばかりだった。
2分足らずの冒頭で託したもの
最終回ともなるとすごい。ジャッキー・チェンの代表作『プロジェクトA』(1983年)にかけたプロジェクトA作戦に失敗した司馬マサト(小池徹平)は怒りまくる。ジャッキー似芸人ジャッキーちゃんを刺客として、岡谷綾香(篠田麻里子)に差し向けた部下の森野千里(玉田志織)を「調子乗んなよ、このクズ」と叱責する。
あれだけ不貞行為を楽しんでいたはずの綾香には容赦なく平手打ち。甘い不倫関係の間に結婚を夢見ていた綾香に対して、「するわけねぇだろ、お前なんかと。ビーエーケーエー(BAKA)、バカ」と吐き捨てる。
ここまで2分足らず。悪魔的な不倫男・マサトの暴力がクズとバカの連打によってむき出しになる。本作が地上波連ドラ脚本引退作となる鈴木おさむが、最終話の冒頭でたたみかけるように小池に託したものが、こんな暴力とは。すごい……。
不倫描写がちゃぶ台返しになる事実
この暴力は簡単に犯罪の一線を越える。あらゆる作戦がすべて失策に終わった今、憎むべき岡谷渉(伊藤淳史)を最大級苦しめる残された方法は、愛娘・岡谷心寧(磯村アメリ)を誘拐すること。
渉が親権を取るために相談した弁護士・財田トキ子(水野美紀)と業務提携を結ぶ探偵・三砂裕(佐藤大樹)を使って誘拐させる。なるほど、すべては手段に過ぎなかったのだ。
最初こそ、ちょっと大げさな描写の不倫ドラマかと思っていたら、不倫すら復讐のいち手段だったという。第5話で渉に対するマサトの高校時代からの恨みが明かされたとはいえ、あらゆる不倫描写がちゃぶ台返しになる事実は驚く。
不倫ドラマだったはずの本作
いや、でもまだジャンル的には不倫ドラマではあるだろう。でもこれ以上、不倫を描かない。なら、これは何のドラマなの? 不倫ドラマを見ていた視聴者はもう迷子だ。
「いったい、何を見せられてたんだ~!?」と怒るのはまだ早い。不倫ドラマだったはずの本作は、ここからクライマックスに向けて怒涛の回収作業に入る。半分以上の話数を通して描かれた不倫要素を一枚一枚引き剥がすように。
まず、誘拐した心寧を監禁する部屋に爆弾をしかける。おびき寄せた渉がドアを開けた瞬間に爆発するギミック。財田の助言で、渉と綾香はひとまず共闘して救出へ。もはや不倫の色っぽさなんてどこにもない。
回想としてのもうひとつの不倫
綾香への指示は、マサトとの不貞行為中、常に着用していた鈴つきの首輪。監禁場所に到着するなり、綾香は首輪を装着し、渉と手分けして心寧を探す。ドアからドアへ。心寧がいる部屋を開けてしまっては……。
ここで番狂わせ。実は二重スパイだった裕が、爆弾が作動しないよう細工していた。親子3人、無事に再会し、綾香は首輪を投げ捨てる。こうして不倫の記憶はまたひとつ剥がれるのだが、渉は決着をつけるため、単身マサトと対峙する。思わぬ刺客。クズ呼ばわりされた千里にマサトは刺されてしまう。
傷を負った彼は渉の肩を借りながら、高校時代の恨みつらみを直接吐露する。マサトが渉を恨んだのは、自分にはない幸せを掴んだからだけではなかった。なんと、マサトの母親は渉の父親と不倫していたのだ。
そう、綾香とマサトによる現在の不倫だけではなく、マサトの回想としてのもうひとつの不倫が過去に隠されていたのだ。不倫が不倫を呼び、単なる連鎖を装ったかにみえた、周到な復讐心がすべて明るみとなる。
「幸せな結末」にすり替わったさりげなさ
致命傷を追ったマサトが息を引き取ると、不倫の毒気はすっかり解毒されたかのよう。再会はもうひとつ。第9話で裕が実は財田の息子であることが明かされたが、自分も不倫によって息子の親権を取られた財田と親子水入らずで昔のように抱きしめ合う。
では、心寧の親権を争う離婚裁判はどうなるのか。大切なことは娘の希望。そして過ちは決して許されないわけではないこと。何が最良か考えた渉は、綾香と和解し、再び3人で家族の暮らしをリスタートする。
不倫ドラマ史上、最恐の不倫劇はこうしてハッピーに幕となる。ほんとびっくりするくらいハッピー。今、考えると、渉の苦悩がにじむ場面でことあるごとに流れた挿入曲「最後の雨」が、第5話ラスト、大瀧詠一の名曲「幸せな結末」にすり替わったさりげなさがにくい。
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