Last Updated on 02/16/2024 by てんしょく飯
2024年2月14日、NHKの人気番組『ブラタモリ』のレギュラー放送終了が発表された。’08年に単発番組として開始以降、好評を博してきた同番組の見どころの一つは、タモリとアシスタントのかけ合いだった。
歴代アシスタントの素朴な反応
1代目・久保田祐佳、2代目・首藤奈知子、3代目・桑子真帆、4代目・近江友里恵、5代目・林田理沙、6代目・浅野里香、そして現在の7代目・野口葵衣といった歴代アシスタントの素朴な反応に、視聴者はなごみ、心を奪われる――。
実は、この構図の中で、次なるNHKの看板アナが作られていたのだ。
ここでいま一度、テレビ史に名を残すこの名番組の魅力について、あらためて振り返っておきたい。
売り出したいアナを投入
どの世界においても、出世を約束されたエリートコースがある。それはアナウンサーの世界でも同じなのかもしれない。
2022年2月9日にNHKが発表した「春の大改編」には、いつになく注目が集まった。同年4月から、看板番組の顔ぶれが入れ替わる「サプライズ人事」が行われたからだ。
その際、午後10時から放送している報道番組『クローズアップ現代+』は『クローズアップ現代』と旧タイトルに名前を戻して、6年ぶりにゴールデン帯の午後7時台に放送することが決まった。
新しく単独キャスターに就任したのが桑子真帆アナだった。そして、桑子が担当していた朝の情報番組『おはよう日本』を引き継いだのは、首藤奈知子アナ。夜の報道番組『ニュース7』には林田理沙アナがMCに抜擢された。また、ドキュメンタリー番組『ファミリーヒストリー』の司会には、浅野里香アナが就任した。
すでにエースアナとして活躍していた桑子は別だが、首藤と林田、浅野は「出世コース」に乗ったと考えることができた。
実は、2022年の改編の中心人物となった4人には共通点があった。全員が『ブラタモリ』のアシスタントを務めたことがあったのだ。
テレビ業界では、かねてから『ブラタモリ』を担当した女性アナは出世すると言われていたが本当なのか。NHK関係者はこう語っている。
「『ブラタモリ』を担当したから出世するというよりは、局にとって売り出したい女性アナを『ブラタモリ』の担当にしているんです。誰もが知るこの番組を担当させて世間の好感度を上げてから、番組を卒業した後に『ニュースウオッチ9』などの帯番組を任せようという算段です。
ただ、放送当初はこういう立ち位置の番組ではありませんでした。3代目の桑子が成功したことで、売り出したい女性アナを出演させるようになったんだと思います」
これは、『ブラタモリ』が歩んできた道のりと、歴代アシスタントを務めた女性アナを振り返ってみるとわかりやすい。
’08年に番組が始まる前、制作陣が頭を悩ませたのがアシスタント探しだ。他の番組では聞き役に徹するタモリだが、『ブラタモリ』ではロケをリードする役回りのため、マニアックなトークで視聴者を置き去りにする恐れがあった。番組プロデューサーの尾関憲一氏は、著書『ブラブラ仕事術』でこう振り返っている。
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〈なるべくシロウト目線で、視聴者の気持ちを代弁して「それはなんですか?」と質問できる立場のアナウンサーがいいと思ったのです〉
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自然にキャラが立つ
こうして初代アシスタントに抜擢されたのが久保田祐佳アナだった。尾関氏は久保田に2つの「指令」を出す。それは「わからないことがあれば質問すること」「事前に勉強しないこと」だった。
要は「気負わず自然体でいなさい」という指示だ。結果的に尾関氏の狙いは当たる。タモリと久保田のかけ合いが視聴者にウケたのだ。コラムニストの亀和田武氏はこう解説した。
「シニア層の男性視聴者は、番組を見ながらタモリさんと自分を重ね合わせます。タモリさんの博学ぶりにアシスタントが畏敬の眼差しを向けることに思わずニヤリとしてしまう。久保田さんがこうした役回りを自然にこなしたことで、番組のひな形が作られました」
番組は’12年にいったん幕を閉じたが、タモリが長年司会を務めてきた『笑っていいとも! 』(フジ系)の放送が終了したことを機に、’15年になって『ブラタモリ』は復活する。
ちなみに、レギュラー放送が始まる前の正月スペシャル番組で一度だけアシスタントを務めたのが首藤だった。
3代目アシスタントに抜擢されたのが桑子だ。彼女は久保田の路線を受け継ぎながらも、自身の個性を生かしたことで番組は新境地に達した。女子アナウォッチャーの丸山大次郎氏は次のように解説している。
「桑子さんは男性が喜ぶような受け答えができるんです。印象に残っているのは熱海の回。タモリさんやスタッフから温泉に入るよう促されて、『靴下しか脱ぎませんよ』とアタフタし、『いやらしい』と突っ込んでいたシーンが忘れられません。収録を重ねるごとに機転が利くようになっていました」
普段は硬いニュース原稿を読むことから、なかなか内面が見えにくかったNHKの女性アナにとって、これほどキャラクターが伝わる番組はなかったと言える。当時の桑子は『ニュース7』を担当していたこともあり、『ブラタモリ』で見せる素顔とのギャップが視聴者の心をくすぐった。
NHKの「顔」として
実際、’15年にオリコンが発表した「好きな女性アナウンサーランキング」において、前年までランク外だった桑子は5位にランクインしている。
’16年に『ブラタモリ』を卒業した桑子は『ニュースウオッチ9』や『紅白歌合戦』を任されるようになり、現在に至るまでNHKの「顔」として第一線に立ち続けている。
局の上層部は、『ブラタモリ』のアシスタントを務めたことが桑子の成功に繋がったと考え始めたという。
あるNHKのベテラン局員は、『ブラタモリ』には「女性アナの成長を楽しめる」要素もあると確信したと話す。なぜなら視聴者はタモリとアシスタントとのやり取りを見て、女性アナの魅力に気づくからだ。
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