Last Updated on 03/17/2024 by てんしょく飯
獣たちが“けもの”と“けだもの”の二派に仲間割れをし、前者のほとんどは確保される。その一方で鼠=大河(ジェシー)率いる後者は、蛇=駿河紗季(宮本茉由)を含めた人質たちを空港の外へと連れ出し、かながわ新空港促進協議会の総会が開催されている横浜ベイサイドホテルへと向かう。空港占拠を“占拠”した彼らの真の目的は、「すべてを断ち切る」ために自らの命を投げ出してでも爆弾のスイッチを入れること。3月16日に最終話を迎えた『新空港占拠』(日本テレビ系)は、最後の最後に“ホテル占拠”へと様変わりする。
続編を期待してしまう
大河は配信を通じて、武蔵(櫻井翔)と龍=駿河悠月(高橋メアリージュン)にホテルまで来るよう命じる。30分以内に来なければ、人質となっている裕子(比嘉愛未)と紗季の命はないと。そんななか、指揮本部の和泉(ソニン)は取調室にいる虎=丹波(平山浩行)のもとへ向かい、大河を止める方法はないのかと訊ねる。丹波の助言を受け、和泉はホテルの通信システムを遮断した隙にSIS隊員たちに突入させることを計画。その頃、現場に到着した武蔵。するとそこにSIS隊員に紛れていた悠月が姿を現すのだ。
物語のフィナーレを飾る舞台に武蔵が到着したところで、占拠の首謀者であった人物がSIS隊員の格好をして紛れこんでいるというシチュエーションは、前作『大病院占拠』(日本テレビ系)の地下4階で“青鬼”こと大和(菊池風磨)がやっていたことと同じである。しかし今回の場合は、この新たな占拠の現場で対峙する相手が他にいる。今作ではあまり『ダイ・ハード』チックな大立ち回りが少なかった武蔵ではあるが、このドラマの前提に“何があっても彼は死なない”というものがある以上、通信システム遮断の一連や時限爆弾が残り1分のカウントダウンを始めるスリリングな展開にも“まあ大丈夫だろう”という不思議な安心感が保たれ続けるのは仕方あるまい。
その分、この最終話まで持ち越されていた“山猫”の正体が、実は二葉(奥貫薫)であったというところにサプライズの大部分が集約されている。なぜ二葉がすべての利権を受け継ぐことになったのかという点は判然としないが、そこはさほど重要ではないのだろう。占拠事件の元凶が身内であったという武蔵にとってショッキングな出来事(これもまた、前作の「P2計画」が和泉の夫の死がきっかけであったことと通じる)に、山猫への復讐に燃えてきた悠月が、いざその憎き相手を殺める機会を得ても躊躇してしまう姿(悠月と紗季の父親が、武蔵と二葉の兄・健一であると前回明らかにされた)。
前作でも今作でも、占拠犯たちが家族や恋人の復讐のために犯行に及ぶことも含め、大それた感じに描かれるありとあらゆる事柄は想像以上に近しい人間関係に起因している。このシリーズになにかヒューマンドラマ的なテーマを見出すとすれば、そうした近しい間柄の者たちとの悔いのないコミュニケーションの必要性という部分であろうか。
そしてまた、最後の最後に悠月が武蔵に問いかける「お前にとっての真実はなんだ?」という言葉。前作のクライムドラマとしてのテーマ、すなわち犯行動機となるものが“正義”だったのに対し、今作におけるそれは“真実”。この両方ともが、現実の社会においては拡大解釈や隠匿など様々なかたちで軽んじられていることはいうまでもない。そのテーマに対して主人公たる武蔵の回答は、前作でも今作でも一貫してブレることはない。山猫であった姉に対し「すべてを受け入れる」と告げ「だから生きるんだ」と説得する武蔵は、前作でも大和に対して「もう誰も死なせない。お前は生きるんだ」と強く説いていた。“生きる”。そのシンプルな一言こそが、このドラマが提示するすべてである。
ところで前作のラストカットでは、当時まだ指揮本部の一員(潜入していた)だった駿河のもとに一通のメールが届き、それがある種の伏線となって今作に繋がっていた。今作では拘置所から大和が脱走し、それに手を貸した誰かに御礼の言葉を伝えるというまたしても意味深な終わり方を迎える。以前のエピソードで獣たちの正体を掴むため情報提供を求めた一連と、このラストを勘案すると、大和がハンニバル・レクターで武蔵(あるいは本庄)がクラリス・スターリングという『羊たちの沈黙』を想起でき、どうしたって『ハンニバル』のような続編を期待してしまう。
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