Last Updated on 03/11/2024 by てんしょく飯
『光る君へ』（NHK総合）第10回「月夜の陰謀」。兼家（段田安則）は道長（柄本佑）たち一族を巻き込み、秘密裏に花山天皇（本郷奏多）を出家させ、退位させる計画を進め始める。そんな折、まひろ（吉高由里子）のもとに道長から恋文が届く。
計画が粛々と実行
花山天皇の退位、そして兼家の孫・懐仁親王（高木波瑠）の即位に向け、道隆（井浦新）、道兼（玉置玲央）、道長、そして兼家の外腹の子である道綱（上地雄輔）はそれぞれ役割を与えられた。兼家は家を繁栄させるためなら悪どいことや荒っぽいことを厭わない。入念に立てられた計画が粛々と実行されていくさま、そして懐仁親王の即位が決まり、喜び笑う兼家の声にゾクゾクさせられる。
花山天皇は信頼していた道兼に裏切られた。道兼は花山天皇に「お前だけだな。朕の気持ちが分かるのは」と言わしめるほどの信頼を手にしていた。だが、道兼は父・兼家の役に立ち、認められることこそが本望であり、花山天皇に寄り添う気持ちなど微塵もない。道兼は「お側にお仕えできて、楽しゅうございました」と言うと、見下すような目つきを花山天皇に向けながら、平然とその場を立ち去った。たばかられたと知った花山天皇はうろたえる。幼いまま天皇となった花山天皇は、さまざまな人の思惑に巻き込まれ、最後には頼りにしていた者に裏切られる。兼家の策やそれに従う道兼の姿を知っているからこそ、その結末は分かっていた。それでも「裏切り者！」と声をあげる花山天皇の姿には心が痛んだ。
第10回は権力を求める兼家によって事が大きく進んだ回でもあるが、まひろと道長の恋路にも大きな進展があった。
『古今和歌集』と漢詩による2人のやりとりは美しい。道長が送った和歌も、まひろが返した漢詩にも、それぞれの気持ちが強く表れている。藤原行成（渡辺大知）の助言により、道長が和歌ではなく志を言葉にする漢詩を送ったことで、まひろの心が動いた。
廃邸へやってきたまひろを道長は強く抱きしめる。「会いたかった」という道長の言葉を聞いた時、まひろは一瞬心苦しげな表情を浮かべる。抑えきれないほどの道長への想いを痛切に感じているように見えた。2人は互いへの想いを確かめ合うかのように口づけを交わした。道長は兼家や姉・詮子（吉田羊）から、己の使命というものを突きつけられていた。そんな道長は、身分を捨て、家族を捨て、このまま2人で生きる道を望んだ。「一緒に都を出よう」「俺たちが寄り添って生きるには、それしかない」という道長の言葉に、まひろは確かに幸せを感じていた。けれど、まひろにはそれを受け入れることができない。
「あなたが偉くならなければ、直秀のような無惨な死に方をする人は、なくならないわ」
まひろの道長を想う気持ちに嘘はない。それどころか、以前にも増して想いは強くなっている。まひろは鳥辺野で道長とともに直秀（毎熊克哉）たちを埋葬した時、自分もまた、道長と2人だけで遠くに行きたいと願っていたと打ち明ける。しかし、2人で都を出ても世の中は変わらない。まひろを演じる吉高が見せる表情や台詞の言い回しから、道長への想いとそれぞれが果たすべき使命を前にまひろの心が揺れている様子が伝わってきて、胸が締め付けられる。道長が「まひろと生きていくこと、それ以外に望みはない」と言った時、まひろの心は嬉しかったに違いない。それでもまひろは、よき政をすることこそ道長の使命であると懸命に伝える。
「道長様が好きです。とても好きです。でも、あなたの使命は違う場所にあると思います」
「わたしは都であなたのことを見つめ続けます。片時も目を離さず、誰よりも愛おしい道長様が、政によってこの国を変えていく様を、死ぬまで見つめ続けます」
強く抱き合う中でお互いの想いが溢れ出し、2人はそのまま肌を重ねる。官能的な場面だが、廃邸のわびしさとまひろの切なさに満ちた面持ちによってどこか物悲しく映る。まひろが涙するのを見て戸惑う道長に、「人は幸せでも泣くし、悲しくても泣くのよ」とまひろは言う。
「幸せで悲しい」
身を寄せて見つめ合うまひろと道長には深い愛を感じる。まひろは今まさに幸せを感じている。それと同時に、2人だけでは決して生きられないことも理解している。「また会おう……これで会えなくなるのは嫌だ……」という道長に、まひろは曖昧なほほえみを返すだけで何も言わなかった。何も言えなかったようにも思える。まひろの純粋でまっすぐなまなざしが、幸せで悲しいその心情を物語っていた。
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